年金制度の改正で支給開始年齢の幅が広がったがいつが得なの?(その1)

 令和2年5月29日、第201回通常国会において、「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」が成立し、令和2年6月5日に公布されました。

 年金制度は5年に1回見直されるのですが、今回も大きく変わりました。

 年金の支給開始年齢も60歳から75歳までの中で選択できるようになり、かなり自由度が増しましたが、65歳以前であれば年額の割引、66歳以上で支給開始すれば割り増しされる仕組みです。75歳から支給開始を選択すると最大で約84%の割増となります。

 自分の仕事での収入や健康面、などを考慮し、実際に何歳までもらうつもりなのかで、かなり差があります。

 今回は、改正点について複雑ですができるだけわかりやすく説明したいと思います。

 ご自分の老後のライフプランを考えながらご覧ください。

 ※今回はその1として制度の変更点の説明です。

年金制度改正法の概要

 今回の制度改正は、高齢化が今後も進み、人によっては働き続け、健康状態が思わしくない人は今まで通り、年金を受給するなど、高齢者の多様性に対応するために改正されています。

 大まかにいうと、5本の柱がありますので、それぞれについて解説いたします。

被用者保険の適用拡大

厚生年金の適用範囲が拡大されます。

これはパートなど短時間労働者の加入要件を一定規模以上の企業所のみに適用されていましたが、この適用範囲を段階的に引き下げて、最終的には約65万人の労働者に適用できるようにしたものです。

現在:従業員「501人以上」

2022年10月~:「101人以上」

2024年10月~:「51人以上」の企業にまで適用が拡大されます。

ちなみに現在、被用者保険の適用を受けていないパート従業員は自身で国民年金に加入する者や配偶者が厚生年金加入者である場合、国民年金第3号保険者として国民年金に加入している場合が多いです。

また、健康保険も一体的に適用範囲が拡大されます。

在職中の年金受給の在り方の見直し

 在職老齢年金については65歳までと65歳を超えてからの取り扱いについて、それぞれ改正されました。

在職中の高齢厚生年金受給者(65歳以上)

 高齢者になってからも働き続ける人は増えていますが、働き続けながら年金を受給することになります。現在は、資格喪失時(退職時・70歳到達時)に、受給権取得後の被保険者であった期間を加えて、老齢厚生年金の額を改定するいわゆる退職改定を行っていますが、退職時だけではなく、毎年、基準日(10月1日)を設けて改定していく仕組みに変更し、受給額を明確にする制度になりました。

働く60~64歳の年金を一部減らす基準

 現在は給与と厚生年金の合計額が月28万円を超えていると年金が減る仕組みですが、この基準を2022年4月以降は月47万円と基準を緩和する変更です。働けば働くほど年金が減る仕組みを見直して、今より長く働けるようにするための改正です。

 ちなみに、男性は2025年度まで、女性は2030年度までの経過的な制度になります。

受給開始時期の選択肢の拡大

 受給開始年齢の繰り下げでは、現在60~70歳の間で選ぶことができる期間を、2022年4月以降は60~75歳に拡大されます。65歳を基準として、受給の開始時期を1カ月遅らせるごとに年金の受給額は0.7%増額し、75歳まで遅らせると84%増となります。

○ 公的年金の受給開始時期は、原則として、個人が60歳から75歳の間で自由に選ぶことができます。
・65歳より早く受給開始した場合(繰上げ受給) → 年金額は減額(1月あたり▲0.4%、最大▲24%)
・65歳より後に受給開始した場合(繰下げ受給) → 年金額は増額(1月あたり+0.7%、最大+84%)
○ 法律施行の時点で70歳未満の人から適用される制度です。

確定拠出年金の加入可能要件の見直し等

 上記の見直しにより、確定拠出年金の加入要件も改正する必要があり、加入要件が大幅に見直されました。これは企業型と個人型両方についてです。個人型DCと言えばご存じのiDeCoのことです。

 実際に、iDeCoに加入して積立しておられるかとも多いともいます。

 一言で説明するのはなかなか難しいのですが、加入要件と受給要件それぞれで変更となっています。

加入要件(2022年4月施行)

(1)企業型確定拠出年金(企業型DC)
  企業が従業員のために実施する退職給付制度である企業型DCについては、現行 は、厚生年金被保険者のうち65歳未満のものを加入者とすることができます(60歳以降は60歳前と同一事業所で継続して使用される者に限られる)が、企業の高齢者雇用の状況に応じたより柔軟な制度運営を可能とするとともに、確定給付企業年金(DB)との整合性を図るため、厚生年金被保険者(70歳未満)であれば加入者とすることができるようになりました。
(2)個人型確定拠出年金(個人型DC(iDeCo))
  老後のための資産形成を支援するiDeCoについては、現行は国民年金被保険者(第1・2・3号)の資格を有していることに加えて60歳未満という要件がありましたが、高齢期の就労が拡大していることを踏まえ、国民年金被保険者であれば加入可能と改正されました。

受給要件

(1)確定拠出年金(企業型DC・個人型DC(iDeCo))(令和4(2022)年4月施行)
  DCについては、現行は60歳から70歳の間で各個人において受給開始時期を選択できますが、公的年金の受給開始時期の選択肢の拡大に併せて、上限年齢を75歳に引き上げられました。(※)農業者年金についても、同様の見直しを行われました。
(2)確定給付企業年金(DB)(公布日施行)
  DBについては、一般的な定年年齢を踏まえて、現行は60歳から65歳の間で労使合意に基づく規約において支給開始時期を設定できるようになっていますが、企業の高齢者雇用の状況に応じたより柔軟な制度運営を可能とするため、支給開始時期の設定可能な範囲を70歳までに拡大されました。

その他

その他、以下のような点が改正されました。

① 国民年金手帳から基礎年金番号通知書への切替え
② 未婚のひとり親等を寡婦と同様に国民年金保険料の申請全額免除基準等に追加
③ 短期滞在の外国人に対する脱退一時金の支給上限年数を3年から5年に引上げ(具体の年数は政令で規定)
④ 年金生活者支援給付金制度における所得・世帯情報の照会の対象者の見直し
⑤ 児童扶養手当と障害年金の併給調整の見直し 等

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